北アルプス黒部源流

Northern Alps Kurobe Genryu

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今シーズン伊藤新道通行を計画をしている方へ

 昨年、伊藤新道は約40年ぶりに開通し、1000人を超える登山者が行き交い、三俣山荘までのアクセスの良さや湯俣から三俣まで標高差約1000mの間に凝縮された目まぐるしい景観の変化は、伊藤新道の魅力として沢山の方に認知されたシーズンだった。その一方で、それは安定した天候により湯俣川の水量が少なかったことや、吊り橋等の工作物を利用することができるようになったことなど、諸々の条件が偶然整ったことが理由である。しかし、伊藤新道が常にそのような状況では無いことを今年入山を予定している方々には知っていただきたい。

 荒涼とした渓谷は脆い岩壁に囲まれどこでも落石が発生する恐れがあることや、湯俣川上流に位置する硫黄沢の火山活動が原因と思われる濁流・増水が毎月起きていることなど、自然の中で起こりうるリスク要因は相変わらずある。また、湯俣川の遡行では15回以上の渡渉があり、技術と判断力が求められ、更には、渡渉により濡れた装備は想定以上に疲労を増加させる場合もあることから、自身の体力と装備のバランスを考慮した行動計画を立てなければ伊藤新道の楽しさを味わう余裕もないだろう。

 伊藤新道というバリエーションルートでは、自由という楽しさと引き換えにあらゆるリスクを許容して歩く必要がある。実際に、伊藤新道では2021年に転落による死亡事故も発生しており、今後も発生する可能性が高いであろうことを私自身は危惧している。

 しかし、ここ数年で「伊藤新道最高だった!」という言葉を頂く機会が増え、伊藤新道には人を魅了する力も秘めていることを同時に実感している。

 我々は山小屋における登山者との会話を通して、それぞれの楽しみ方を見つける手伝いをすると同時に、ホームページやSNS等で伊藤新道を歩く方たちが入山前に正しい情報を得られる場所を作る必要があると考えた。湯俣山荘には、湯俣川エリアを冒険という視点で楽しむためのヒントを散りばめたり、当山荘ホームページでは、昨シーズンの実績を踏まえて、「伊藤新道を歩く」ということに特化した内容をまとめた。

 

 昨年に引き続き、通行届の提出や整備状況の確認は、三俣山荘・湯俣山荘の各小屋で行えるよう準備を進めているところであり、8月中旬の開通前には各吊橋付近にライブカメラの設置を行い、リアルタイムに状況確認ができるようになる予定である。

 湯俣川エリアは、周囲を岩壁に囲まれ、山と自分との距離が近く感じられる。踏みしめる大地の力をいつも以上に感じる絶好の機会であり、自然との対話を楽しんでいただきたい。また、湯俣川の渓谷歩きを終え稜線に向かう途中では、歩いてきた伊藤新道を眼下に眺め、その周辺に広がる自然を俯瞰することで、より奥行きのある山行となるだろう。

 最後に、伊藤新道を歩くことで感じられる魅力は人それぞれ異なり、それこそが人々を魅了する要素なのだと思う。自然環境が教えてくれる、厳しさや優しさは、伊藤新道を初めとする湯俣川エリアに足を踏み入れることで感じられ、自身の技術に合ったルートにおいて、それらを体験しに是非足を運んでほしい。

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