北アルプス黒部源流

Northern Alps Kurobe Genryu

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台風10号(サンサン)による伊藤新道への影響について

8月22日に発生した台風10号(サンサン)は予想よりもかなりゆっくりと進み、8月27日辺りから、いつ通過してもおかしくないような予報だったため、伊藤新道通行を断念された方が多かったのではないでしょうか。

台風後の伊藤新道の状況についての問い合わせが増えてきました。以下をご参照ください。

【台風後の伊藤新道の状況について】

9月3日現在の伊藤新道の水量は、深いところで膝上から腰程度で渡渉可能(身長約160㎝程度では太もも上部)で、泳ぐ箇所や進退窮まって高巻きするようなところは基本的にはありません。落ち着いて、そして、濡れることをいとわず水の中にあるルートを見極めてください。

【通行時の注意点】

雨の後の伊藤新道は落石にも要注意!!

実際に8月中旬には降雨後に桟道を通過した際、背後で崩落が起こり、水柱を見たという登山者もいました。

この時に桟道も使用不能となり、現在も引き続き落石の可能性が高いことから、桟道の前後で対岸に渡渉して、崩落個所を回避してください。

【雨天後の水量変化を見極めるポイント 】

伊藤新道は集水域が広い為一気に水が増えますが、勾配が急で下流へ向かって川幅が広がるため水が引くのも早い傾向にあります。

今回の台風による水量変化の観察を以下にまとめました。今後の伊藤新道通行の参考にしていただけたらと思います。

台風10号の影響と思われる降雨は、8月31日朝から夕方にかけての8時間程度だったため一時的な増水が確認されましたが、降水量はそこまで多くなく、1日もかからずに通常の水位に戻りました。

あくまで経験的なものではありますが、伊藤新道上流で雨が降り始めると1時間以内には濁り始め、その後徐々に水量も増水します。そして、降り止んだ後は12時間以内に濁りは解消し、24時間以内に元の水量に戻る傾向にあります。(時間雨量20mm以下の場合)

下の図は8月31日7時から9月1日7時までの第1吊橋定点カメラと雨雲レーダーの画像です。

おおよそ前述したとおりの水位や濁りの変化となっていますが、今回は、比較的早く降雨前の状態に水量が戻りました。その理由としては、31日以前の降水量が少なかったため山が水を含んでおらず、31日に強い雨が降ったものの8時間程度と短時間であった事が伺えます。

図1:8月31日7時頃の第1吊橋定点カメラの画像(湯俣川上流で雨が降る前)

図2:8月31日10時の雨雲レーダー(湯俣で雨が降り始めた頃、上流では既に降り始めている)

図3:8月31日10時頃の第1吊橋定点カメラの画像(濁り始め、徐々に増水も確認される)

図4:8月31日12時の雨雲レーダー(湯俣で雨のピークを迎えた頃)

図5:8月31日12時頃の第1吊橋定点カメラの画像(湯俣で雨のピークを迎えた頃)

図6:8月31日15時の雨雲レーダー(湯俣で雨が止んだ頃)

図7:8月31日17時頃の第1吊橋定点カメラの画像(湯俣で雨が止んだ頃)

図8:9月1日7時頃の第1吊橋定点カメラの画像(水量が増水前の状態に戻った頃)

引用元:日本気象協会

URL:https://tenki.jp/past/2024/08/31/radar/3/

伊藤新道は一般登山道とは異なるバリエーションルートであり、渡渉技術や落石へのリスク管理などが求められます。

しかし、湯俣川の勢いある水の流れやそこら中から湧き出す温泉や噴気は自然のエネルギーを体感でき、そして、標高差約1000mに凝縮された渓谷から稜線に至る環境の変化は、足元から遠くの景色まで様々な視点で楽しませてくれる場所でもあります。

第3・5吊橋や桟道は使用できなくても、渡渉すれば行けることから、自身の技術や体力を考慮した計画で、より多くの方にこの素晴らしい体験をしてほしいと願っています。

引き続き、最新の伊藤新道についての情報は、電話でも承っていますので、お気軽にお問い合わせください。

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