北アルプス黒部源流

Northern Alps Kurobe Genryu

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湯俣エリア「ジオ」の魅力

山の楽しみ方は多種多様だ。地図を見ながら目的地を目指して歩く事はもちろん、ザックに食料や調理器具を詰め込み山で盛大な宴会をしたり、その瞬間のために何時間も粘ってカメラを構えたり、きっと皆さんもいろいろな山の楽しみ方をされてきている事だろう。

では、ここ湯俣山荘周辺ではどんな楽しみ方があるのだろうか?

昨年からたくさんの方に通行していただいた伊藤新道も、今シーズンはまだ川の水量が多いため(詳しくは今後発信予定のブログを参照)、現時点で、三俣山荘まで踏破する事は多くの経験と技術を要する。さらに湯俣山荘は、どこかの山を目指すための起点になる山小屋とは言い難く、それに加えて山小屋までのアクセスも決して良いとは言えないため、夏山シーズンに入ってからも北アルプスの中では比較的静かな場所である。

そんな湯俣山荘周辺の楽しみ方として、地球のエネルギーを存分に体感するべく「ジオ」の観点から、ぜひ歩いてみていただくことを提案する。

まず、小屋の前を流れる「高瀬川」は、上流部で「湯俣川」と「水俣川」に分かれる。「湯」と「水」の違いは何だろうか?そう、温泉成分(硫黄)が含まれているのが「湯俣川」、真水なのが「水俣川」である。真水が流れる「水俣川」に対して、「湯俣川」は噴湯丘周辺や上流の硫黄沢・硫黄東沢の温泉水が流れ混むため、ほんの気持ち温かい。

「湯俣川」と「水俣川」の出合地点 支流が合流しここから高瀬川となる
水俣川下流域から上流部を見る ここから水俣川を遡ると「千天出合」へと繋がる

そしてこの「高瀬川」は多くの集水域を持つため、あるロマンを持ち合わせているのだ。流れつく沢は、槍ヶ岳から流れる「千丈沢」と「天上沢」。水晶岳方面から流れる「ワリモ沢」。双六岳方面から流れる「樅沢」。三俣蓮華方面から流れる「弥助沢」。これらは、それぞれの支流が合流しながら、終いにはここ「高瀬川」に集まっている。

ここから感じていただきたいロマンとは、北アルプスの名峰たちを形作る岩石が、この「高瀬川」に集積しているという事である。小屋から上流部に向けて歩く途中、東京電力の取水堰があるが、その手前に大きな岩石がたくさん積まれた堤防がある。この岩石の中には、槍ヶ岳の石、水晶岳の石などが流れ着き、まさにこの堤防は石の展覧場となっているのである。実際に、展覧場で、名峰ごとに岩石を見分けられたら、もう一人前だ。

上流部からここ(高瀬川)まで流れ着いた岩石たち

次に、東鎌尾根の水俣乗越から湯俣、高瀬ダムを通り、高く聳え立つのは「高瀬川断層」である。高瀬川断層は大きな断層であり、断層破砕帯が幅200mにわたって分布している。黒部ダムのトンネル掘削で有名な破砕帯は、この高瀬川断層から枝分かれしたものだ。

地質分布図を見るとある事に気づく。この高瀬川断層が直線的に南北につながっているのだ。ここは比較的珍しい、直線的に断層が続く「断層線谷」となっている。それだけ岩盤がもろく、川の勢いが強いため、直線的に侵食した事が伺える。

山荘内にある地質図を広げると高瀬川沿いに高瀬川断層が連なる事がわかる 
GEOLOGICAL SURVEY OF JAPAN 1991、田村2023 より

そして、さらに湯俣川を遡行すると…

これから先は、実際にこの地に足を踏み入れ、自身で見て、触れて、体感していただきたい。きっと、山の楽しみ方がさらに広がるはずだ。

湯俣山荘では、宿泊者限定で、山荘スタッフによる「モーニングジオツアー」を毎朝開催している。参加費は無料、チェックイン後にツアー予約をしていただくスタイルで、翌日の朝食後に参加者とスタッフで湯俣山荘から噴湯丘の対岸までを歩き、スタッフが解説をしていくツアーとなっている。たくさんの魅力をお伝えできたらと、スタッフ一同日々勉強中だ。

※天候やルート状況によって中止・変更になる可能性があります

山荘スタッフによるモーニングジオツアーの様子

今回ブログに記載した事柄は、ご自身の目で確かめるべく、実際に湯俣を歩き、観察していただくと、より面白みが増すだろう。湯俣山荘周辺の新たな楽しみ方を、ぜひ体感しに、湯俣山荘へ。

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