北アルプス黒部源流

Northern Alps Kurobe Genryu

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湯俣周辺で見られる希少な生き物たちのご紹介

朝方、「ジェー、ジェー」という声で目が覚めた。山荘の入り口にあるナナカマドに目を向けると、カケスが一羽木に停まり、食べ物を探しているようだ。羽を広げるとチラッと見える瑠璃色が、なんとも綺麗でついつい目で追ってしまう。ここに巣箱を置いたら、遊びに来てくれるかしら?と、想像を膨らませるのが楽しい。

山荘の受付に置いてあるカケスの羽ペン

こんな発見もあった。6月初旬、名無避難小屋から湯俣に向かう途中、うっすらとピンク色で肉質な花弁の花が咲いていた。日陰の湿った地に、一輪咲くその姿は特殊な見た目をしていて、かなり目をひく。これは、葉緑体を持たず菌類に寄生する腐生植物「ショウキラン」だ。顔を近づけてみると、形状からは想像がつかない、独特な甘い香りを放つ。

今年は湯俣山荘に向かう途中、2カ所で発見された。また来年見られるのかしら?と今から楽しみなのである。残念ながら昨年は、1株折られていたのを発見した。個体数が少なく、希少種であるから、大切にしていきたい。

湯俣山荘の先にある「山の神」を下ると、周辺の様相が一変。脇に流れる高瀬川の音がなんとも涼しげだった場所から、聳え立つ渓谷と湧き上がる湯気がまさに「地獄」を彷彿させるエリアへ入る。硫黄の香りと共に湧出口からは85℃以上の湯が湧き上がっているから、その温度にこれまた驚く。

水俣川は真水のため水生生物をはじめ、苔や藻が生息できるが、湯俣川は温泉成分が流れ込むため、そのような水質で生息できる生物は限られる。そんな中、湯俣川を遡行しながら足元に目を向けると、川床でゆらめく「硫黄芝」と出会う。硫黄酸化細菌が共生する微生物ストリーマーの一種で、温泉水中の硫化水素を分解し、硫黄を生成しているため、硫黄芝の表面には硫黄が付着している。そして、糸状の骨格は、硫黄酸化細菌の作り出したセルロースである。

先日の大雨による増水で、流されてしまった硫黄芝があり大変悲しいが、基本的には流れが緩やかな場所を選んで生息しているのではないかと推測される。川の流れに身を任せ、無数にゆらめく硫黄芝の姿は、時間を忘れて見入ってしまう。それぞれの場所で硫黄芝のゆらめき方が違うため、お気に入りの硫黄芝を探してみるのも良さそうだ。

湯俣山荘周辺とその先の湯俣川を中心としたこのエリアは、自然が生み出すたくさんの魅力と不思議を併せ持っている。ぜひ、豊かな自然と地球のエネルギーを体感しに足を運んでみてほしい。

そして、この景観を保全し末長く未来に残すため、どんな行動が求められるのか考えてみてほしい。その考え方が、自然を魅力にも学びにもリスクにも、そして、冒険にも変える!

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